2002年度
第1回 畑村 洋太郎氏 第2回 林 春男氏
第3回 飯久保 廣嗣氏   




□第1回講演会(2002年4月22日)
 講師:東京大学名誉教授、工学院大学国際基礎工学科教授 畑村 洋太郎氏 テーマ:失敗学のすすめ


失敗のすすめ・・・失敗をどう考えたらよいのか。

1. 失敗の必要性
 人間は新しいことに挑戦します。 しかし、1000回に3回しかうまくいきません。 99.7%は失敗します。その経験からこれだけはやらないようにしようという消去法を体で覚えていきます。 それが一般化された体験となります。 さらに学習すると、自分の目の前で起こっている現象の因果関係を自分で記述する事のできる科学的理解ができるようになります。
 失敗をやってはいけないことと考えると、挑戦するなということになり、社会は衰退していくほかありません。 無謀な挑戦ではなく、きちんと考えた上で挑戦していくことを社会に取り込むことが大切です。 その中で失敗は基本であり、これから先のためにも必要なのです。

2. 失敗の生かし方
 アメリカ、シアトルの北部にタコマ湾というところがあります。 今から60年ほど前に、軽くて、安くて、長い吊り橋が造れるという、当時の新しい理屈に従って橋が造られました。 しかし、たったの秒速19メートルの風で橋は落ちてしまいます。 この失敗を解析し、構造力学、流体力学がすすむと世界で吊り橋は落ちなくなります。 明石大橋がなぜ落ちないのか。明石大橋は秒速80メートルでも落ちません。 なぜか。それは、失敗が生かされているからです。 研究所でモデルを作り、徹底的な模擬実験で検証しています。 失敗は隠すことなく、情報として発信し、共有化されることで技術に貢献し、人々を救います。 

3. 原因と結果
 労働災害にハインリッヒの法則というのがあります。 これは1件の重大な労働災害の裏には同じ要因による29件の軽災害があり、その後ろには怪我にならない体験が300件あるという法則です。 裏を返し、300件に1件しかひどい災害は起こらない確率現象だともハインリッヒは言っています。 すると、299件は隠しても大丈夫という議論が会社の中ではまかり通るようになります。 しかし事故が起こった時に、個人のせいにして、終わりにすると、後ろの組織運営不良を隠蔽する事になり、失敗の拡大再生産を起こすことになります。 そして300件のうちの1件が起こると、そのつけは300倍です。 300件分の責任を背負わされます。 失敗の原因は、ヒヤリとした体験が多層に重なることによるもので、これらの小さな要因にきちんと対処し、削除すると重大災害は防ぐことができるのです。

4. 失敗の必然性
 技術の脈絡を萌芽期、発展期、成熟期、衰退期で表現すると、萌芽期には僅かな経験と知識しか持っていません。 そのため初歩的な失敗が沢山起ります。 発展期に入ると、人も資本も投入され多くのことを試みます。 数多く失敗するものの、豊富な知識と経験を持っているときです。 成熟期になると標準化、マニュアル化がすすみ、一本道だけを上手に通ることが文化として出来上がります。 そうなると、見かけ上のみ立派で、一人では全体の詳細など掴むことができず、いざというときに建て直しがきかなくなります。 これは経済性の追求による失敗の必然です。

5. 失敗知識の伝達
 日本の自動車会社は失敗の情報だけで30〜80万件持っています。 データを集めることはとても大切ですが、失敗の情報が情報のまま扱われているので役に立ちません。 どの様な失敗で、どの様な事象が起こったのか、時間とともにどの様に経過し、そのときの推定原因はなにか。 どの様に対応したのか。 そして、これから何を学ぶのかという知識化が必要です。 本当に失敗を伝えようとするのであれば、知識化し、人間が吸収できる形にもっていくことです。

6. 失敗を生かす工夫
 失敗は活用しなくてはいけません。 そのためには、失敗の情報だけでは駄目です。 結果だけではなく、知識にした上で伝えていく必要があります。

7. まとめ
 失敗の積極的な取り扱いが必要です。 上手くいく方法より、まずくなる実情の方を教えられた方が人は真剣に耳を傾けます。 失敗をしなければ、個人、組織にとっての成長や進歩は望めません。 失敗のマイナス面を見るだけでなく、プラスに転化する努力も大切です。 また、失敗を立体的にとらえる必要もあります。技術面の取り扱いは当然ですが、心理面の取り扱いの方が大事です。 当たり前のことで忘れられているのが、一番最後に失敗をするのは人間であり、失敗を起こしにくくするのも人間だということです。 人間の知恵と投資が失敗を防ぐのです。



講師の略歴
畑村 洋太郎(はたむら・ようたろう)
1941年東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。 東京大学工学部教授を経て、2001年退官。現在は東京大学名誉教授、東北大学客員教授、工学院大学国際基礎工学科教授。 ナノ・マイクロ加工、力センサ、加工の知能化、医学支援工学、技術の伝承と教育の方法論を研究するほか、「失敗知識活用研究会」を通じて失敗学の構築を行っている。 また、「実際の設計研究会」を主宰し創造設計原理の研究を行っている。編著書に「実際の設計」「続・実際の設計」「続々・実際の設計−失敗に学ぶ」 「設計の原理」「設計の方法論」「失敗学のすすめ」「機械創造学」などがある。



□第2回講演会(2002年7月9日)
 講師:京都大学防災研究所教授 林 春男氏 テーマ:私の考える危機管理


 
講演概要作成中



講師の略歴
林 春男(はやし・はるお)
1951年東京生まれ。早稲田大学文学部心理学科を卒業後、1979年に早稲田大学大学院を修了。 その後、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)大学院博士課程に留学し、1983年同校から博士号を修得。 さらに、弘前大学助教授、広島大学助教授を経て、1994年京都大学防災研究所助教授、 1996年には京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授に着任され、現在に至る。 この間、日本心理学会理事、地域安全学会副会長を歴任。 主な著書に「率先市民主義−防災ボランティア論講義ノート」「災害ストレス−こころを和らげるヒント−」等がある。



□第3回講演会(2002年11月21日)
 講師:株式会社デシジョンシステム代表取締役社長 飯久保 廣嗣氏 テーマ:思考技術と危機管理


「思考技術と危機管理」

「管理」と「MANAGEMENT」
管理 1.種々の仕事や職務また施設などを管轄・運営し、また、保守すること
2.世話をして、よい状態を保持すること
3.法律上、自分の所有物でない財産・施設を維持し、また目的に合う範囲での利用・改善を図ること
                           「大辞林」より
MANAGEMENT
   1.特定の仕事や業務の方向付け(DIRECT)を行い、その指導(CONDUCT)をすること
2.考案や工夫(CONTRIVE)を持って、物事を成功裏に導くための対応をすること
                           「LIVING WEBSTER」より

諸管理の一部と技法
   言霊(言葉にあると信じられた呪力)文化の日本(「縁起でもないことを言うな」)
「備えあれば憂いなし」の本質
思考技術(CONCEPTUAL SKILL)とは・論理的思考能力とは

EM法論理思考の四つの領域・EM法四つの領域の関連と実務

日本人のリスクに対する発想
   1.リスクマネジメントとクライシスマネジメントも混乱
2.日本人は「問題は起こらない」と考える傾向がある
3.問題発生時の対策はその時に考えればよいとする傾向がある
4.不祥事の度にトップが謝罪する光景は日本でしか見られない
5.リスク対応の発想は「挑戦的な課題解決」にも応用できる

状況分析のプロセス Situation Analysis

原因分析のプロセス Problem Analysis

決定分析のプロセス Decision Analysis

経営(実行・実施)リスク分析のプロセス Risk Analysis

効率的な思考業務は適切な課題設定から始まる
効率的な課題設定の例
   T.業界として東欧に工場進出をする動きがある。当社は?
U.A同業者がC同業者と経営統合の動きがある。当社は?
V.A競合企業が画期的新製品を発売するという情報がある。当社は?
W.対イラク軍事設備査察に対するリスク分析

日本再生の避けて通れない領域として思考技術(CONCEPUTUAL SKILL)の強化がある。
株式会社デシジョンシステムが、TOEICやTOEFLで著名な米国ETS社と共同で、 TOLAP(Test Of Logical Ability in Problem−solving)に関する調査を行った。
それによると、企業の幹部社員の論理的な分析・判断力にどの程度満足しているかに対しては、 複雑な経営課題に対する対応力や意思決定のスピードと精度に関して、回答数の45%が 不満を抱いている結果が出た。
更に、82%が変化を踏まえて、計画立案業務や意思決定に対する組織としての合理的な対応に 不満であるという。
上記TOLAPは商品サービスとして2003年5月に発売する予定。



講師の略歴
飯久保 廣嗣(いいくぼ・ひろつぐ)
1934年東京生まれ。青山学院高等部を卒業後、1957年に米国デポー大学を卒業。 1957年米国AFIA東京支社入社。1962年株式会社JEC設立、代表取締役就任。 1984年JECを社命変更、株式会社デシジョンシステムとし、現在に至る。
【1972−1983ケプナートリゴー(日本)株式会社設立、代表取締役】
現在、米国インディアナ州在日名誉大使、米国デポー大学理事、学校法人青山学院理事等に就任中。 また、今年、(社)全日本能率連盟より「マスター・マネジメント・コンサルタント」の称号を受ける。
主な著書には「問題解決の思考技術」「思考技術入門」「決断の法則」等がある。

                           ※講演会の講師の肩書きは、講演当時のものです。